まだかまだか、と思っていたのですが、金曜日にようやく、英首相リズ・トラスが英財務相クワジ・クワーテングを解任しました。ただし、8分間という超短くお粗末な記者会見で、首相の説明責任がここでも問われています。
トラス
首相と財務相が「ミニ予算」を発表したのが、9月23日。「ミニ予算」が発表されて以来、イギリスの通貨、国債、株式が同時に売られるという「トリプル安」となり、ポンドが大きく下落。

この「ミニ予算」、どこがおかしいのか(「英ポンド暴落の背景。どうなるイギリス経済」)。

一言で言ってしまえば、この「ミニ予算」は「大減税」と「大借入」です。今後5年間で約450億ポンドの減税(約7兆円。過去50年間で最大規模の減税)を実施し、今後数年間で4,000億ポンド(約62兆円)を借入するという。

減税で歳入が減るうえ、借入を大きく増やすという。どうやって借入を返済していくんだ。イギリス経済の先行きは暗い。英政府の経済政策はリスクが大き過ぎる。前述のトリプル安が起こり、政府負債の利払いの利率もグンと跳ね上がりました。

「ミニ予算」発表を受けて、大きく金融市場が混乱する中で、リズ・トラス首相とクワジ・クワーテング前財務相は、「自分たちの政策は正しい」の一点張りを通したので、この二人に対する信用も地に落ちました(「ポンド暴落の中。。。」)。
トラス
ここで、クワジ・クワーテング前財務相を解任し、特に評判の悪かった「高額所得者への減税」(先日撤回)と「法人税引き上げの廃止」も撤回したことで、リズ・トラス首相は挽回できるのか。

100%無理でしょう。実際に、金融市場は「財務相解任」のニュースに対して否定的に反応し、対米ドルで英ポンドは再び下落。政府負債の利払いの利率も、再度上がりました。
市場

何がいけないのか。「政府の経済政策が見えない」、そして「リズ・トラスに対する信用が地に落ちた」ことです。

「政府の経済政策が見えない」
「ミニ予算」の発表以来、首相は、特に評判の悪かった「高額所得者の課税削減」と「法人税の引き上げの中止」を撤回。それでも、「大減税」と「大借入」という状況は変わらず、どうやって政府債務を返済していくのか、という大きな問題が残ります。ただし、リズ・トラスは首相選の間ずっと、「減税」を大きく掲げてきたので、いまさら「減税」を全面撤回することはできないでしょう。

「リズ・トラスに対する信用が地に落ちた」
9月23日の「ミニ予算」発表から、財務相解任まで3週間かかっています。それまで、「自分たちの政策は正しい」と主張を繰り返し、金融市場の混乱を放置していた責任は非常に重いです。そして、その姿勢から、政治手腕や政治理念が大きく疑われています。リス・トラスが首相を続ける限りは、金融市場は肯定的な反応をしないでしょう。
トラス
保守党(リズ・トラスが属する政党)のメンバーの中でも、リズ・トラスに対する非難が高まっています。それでも、今なお、リズ・トラスは、辞任せずに首相を続けると言っています。

イギリスで首相を辞めさせるには、「自ら辞任する」「不信任投票を実施して不信任にする」しか方法がありません。

不信任投票を実施するには、首相が属する政党(保守党)の会員議員のうち15%以上が、「不信任投票を求める書簡」を提出する必要があります。今、保守党の会員議員は続々と、この「不信任投票を求める書簡」を提出しており、来週には何らかの動きがあると言われています。


リズ・トラスが退任した後、誰が首相の座に就くのか。首相選で2位だったリシ・スナク旧財務相、3位だったペニー・モーダントが候補とみられています。

リシ・スナクはジョンソン前首相のもとで財務相を務め、経済を見る目には定評があります。ただし、ミリオネアーで庶民の感覚がわからないと言われ、人気はありません。ペニー・モーダントにいたっては、全くの未知数で、リス・トラスと同じ轍を踏むことも考えられます。

モラルが大きく問われたが、政治理念は正しかったボリスジョンソンも、首相候補とみられていますが、これは、多くの国民が許さないでしょう。


そして、ここまで国内や世界の金融市場を混乱させた、保守党の責任は重いです。その保守党から、そのまま首相を出してよいのか、総選挙で国民に是非を問うべきではないか、とも言われています。

**イギリスの首相選は、首相が属する政党のメンバーのみに投票権がります。そのため、リズ・トラスは一般国民から選出されたわけではありません**

混迷を深めるイギリス政界。これからどうなるのか。
そして、「政治家に必要な資質とは何か?」を大きく考えさせられます。


ランキングに参加しています。もしよろしければ、クリックしていただけると、とても励みになります。

にほんブログ村

ロンドンランキング